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2004.01.03

あなたの人生の物語

テッド・チャン著、浅倉久志他訳、『あなたの人生の物語』、ハヤカワ文庫SF、2003年を読む。

これは、「もしも・・・だったら、・・・」という形式で書かれた、さまざまなSFの短篇集。 そのアイデアと十分に練られた展開は、世界をこれまでとは非常に異なった視点から見せてくれた。 個人的には、「地獄とは神の不在なり」と「顔の美醜について -- ドキュメンタリー」がお気に入り。

人は、相手を判断するときに、相手の外見に多くを依っているという調査をどこかで読んだ記憶がある。 ときに自分自身でも、コントロールをはずれて沸き上がってくる対人感情の強い波を感じることがある。 そのときに、このことに思い当たることもある。 「顔の美醜について」は、もしも人が相手の美醜に左右されなくなる方法が見つかったらという仮定を基に、それが社会運動と結びついた世界を描いていておもしろい。

旧約聖書の神は、定命の者には理解しがたい行動を取る場面がいくつもある。 その神を信じるということは、一体どういうことなのかを問うた「ヨブ記」は、旧約聖書の中でも異彩を放っているものの一つだと思う。 世界は、理不尽であり、悪は散見される。 たとえば、それは、われわれが狂った神性の支配する黒い牢獄のような世界に閉じ込められているからであると、グノーシス主義者のように考えるのも一つだろう。 しかし、そう考えずに、神を信じるのであれば、その神の創造したこの世の理不尽さは大きな問題となるだろう。 「ヨブ記」の取り扱っているこの問題を、天使が降臨し、天国と地獄が顕現するという、神の手が非常に見えやすくなった世界を舞台にして、問い直しているのが「地獄とは神の不在なり」である。 この物語の提示するビジョンはとても衝撃的だ。

なお、これら神学的な立場とは極めて対照的に、自己啓発セミナーなどの類では、自分が源であり、自分の身の周りに起こってくるあらゆることは、すべて自分の創造であるという。 その場合、人類が存在している限りおそらく尽きることのない、この世の理不尽さや悪の存在といった問題を、もしも本当にまじめに考えると一体どんな結論が導かれるだろうか?

岩波書店の旧約聖書の最後に残った「ヨブ記 箴言」の刊行を待ちながら。

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受信: 2004.01.30 23:23

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