高島易断を創った男
持田鋼一郎著、『高島易断を創った男』、新潮新書、2003年を読む。 この本は、伊藤博文の暗殺を予言したという伝説で有名な、易聖と言われた高島呑象(高島嘉右衛門)の伝記だ。
実践的な易占いの方法を書いた本を読むと、高島呑象の伝説にお目にかかることがあるが、そこには半ば神格化された姿が描かれている。 この本では、どちらかというと易聖・高島呑象というよりは、幕末から明治を駆け抜けた大物実業家・高島嘉右衛門として描かれた側面がそれなりに大きく、それが大変興味深かった。 当時は、次々と西洋の知識や文化が流入し、世の中がめまぐるしく変化していた。 高島嘉右衛門は、その中で、いろいろな大きな試みに挑戦し、財を成したり、(なんと)失敗したりを繰り返す。
高島嘉右衛門が易に深く関わることになったのは、獄中で易経を読みふけったことがきっかけであることはよく知られている。 そもそも、投獄された理由というのは、当時は金と銀との交換レートが国内1対5、国外1対15と大きく異なっていたのだが、負債の返済のためとはいえ、これを利用してお金を作ったことなのである(当然、禁じられていた)。 このような、まさにその時代だからこそ起こりえた出来事というのが、高島嘉右衛門の人生とともに、この本の中では生き生きと語られている。 高島嘉右衛門が、政府の高官とも親交が深かったためでもあるのだろう、この本では、「文明開化という時代の日本」が、もう一人の主役とも言えるくらいだ。 出てくる人物が大きく重なる、安彦良和のコミック、『王道の狗』(1〜6巻、講談社、1998〜2000年)を一緒に読むと、より楽しめそうだ。
なお、高島嘉右衛門に弟子がいたかいなかったかについては諸説あるが、高島や高嶋の名を冠した易者や団体は複数存在するようだ(この間、TSUTAYAで、3種類くらい異なった団体が出している「高島」とタイトルについている暦を見つけた)。 名称の使用をめぐって行われた裁判もあったらしい(参考: 市民のための憲法セミナー&素晴らしき知的財産権の世界より「東京地裁H6 (ワ)11157 高島易断総本部営業表示不正競争差止等請求事件」、そしてその控訴の東京高裁判決の館より「東京高裁判決 平成12(ネ)1203 不正競争 民事訴訟事件」)。
また、段勲著、『宗教か詐欺か その見分け方 -- "神"一重の現場を歩く』、リム出版、2001年に描かれたような事例もあることに留意したい。
なんにせよ、よくない予言を告げられて、お祓いしてあげるから(あるいは講座に参加せよとか)、○○円出しなさいと言われたら、黄金パターンなので注意しておけということで。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント