色彩の科学
金子隆芳著、『色彩の科学』、岩波新書、1988年を読む。 なお、同著者による、姉妹編の『色彩の心理学』、岩波新書、1990年という本もある。
色は不思議だ。
光の三原色は、赤、緑、青のRGBと言われる。 しかし、実際には光は連続スペクトルなので、RGBといった特定の3つの波長だけで表せるわけがない。 この3つの色ですべての色が表現できてしまうのは、人間の視神経の色を感じるものが3種類あるからだ。 これは逆に言えば、本当は異なったスペクトルを持った光が目に入っても、同じ色に見えてしまう場合もあるということにもなる。 更に、目は、たやすく環境に順応してしまう。 たとえば、わたしは、プールで泳ぐときに、青い色のゴーグルをかけているが、このゴーゴルをはずすと世界が黄色く見える。 目が青い世界に順応してしまった結果だ。 また、明るい屋外から、暗い照明をされた室内に入ると、ものがよく見えない。 しかし、夜になると、その暗い照明でも十分室内が明るく見える。 また、同じ色でも、隣接している色によって色味が変わって見えることもある。
色は、こんなふうに、物理現象と生理現象と認知現象によって作られている。
本書『色彩の科学』は、実験心理学者による色彩学の本である。 しばしば、数式が多用されている色彩学の本では、非常に大切なことだけど、さらりと書き流されて気がつきにくいような話も丁寧に書いてある。 数式はほとんど出てこないけれど、色彩学の発展の歴史とその原理が、実験装置や図形やグラフでしっかりと説明されている。 なので、どちらかというと色のことをまじめに勉強したい人向けだが、流し読みすればニュートンにはじまる科学的色彩学と、アリストテレス、ゲーテの系譜の哲学的色彩学の歴史の本としても楽しめる。 新書で、何といっても、この内容が読めるところが、すごいことのような気がする。
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