コーチングの歴史
最近、コーチングが流行している。
よくもわるくも、日本におけるコーチングは、1997年に自己啓発セミナーの会社であるiBDが、関連会社のコーチ21を設立して導入したことが、契機になっている。 iBDは、社会学者の受講者を集めていた以外には、普通の自己啓発セミナーで、バブル崩壊以降は、自己啓発本の販売で好調のディスカヴァー21などの関連会社の方が盛んになっていく。 コーチングもそのような業務拡大の一つなのかもしれない。 この流れには、他社も追従しており、自己啓発セミナー関係では、アーク・インターナショナルの関係者だった菅原裕子、オープン・セサミ(クリエイティブ・セミナー)から独立したワンセルフ・インターナショナルなどもコーチングを打ち出している。
ところで、コーチングとは一体何なのか。 たとえば、「コーチング」「歴史」などでサーチしてみると、マッチするのは以下のような内容だ。
- 16世紀: "coach"(馬車)という言葉が登場。
- 1950年代: ビジネスの世界で、マイルズ・メース(Myles Mace)著、占部都美訳、『経営者の成長と育成("The Growth and Development of Executives" 1950)』、日本生産性本部、1961年の登場。
- 1980年代: トマス・J・ピーターズ(Thomas J. Peters)、ナンシー・K・オースティン(Nancy K. Austin)著、大前研一訳、『エクセレント・リーダー -- 超優良企業への情熱("A Passion for Excellence" 1985)』、講談社、1985年。Dennis C. Kinlaw, "Coaching for Commitment -- Managerial Strategies for Obtaining Superior Performance", 1989.の登場。また、スポーツの世界で、NFLのジョージ・アレン(George Allen)、NBAのレッド・オーバック(Red Auerbach)、大学バスケットボールのジョン・ウッデン(John Wooden)、そしてティモシー・ガルウェイ(W. Timothy Gallwey)著、後藤新弥訳、『インナーゴルフ -- 自然上達法から精神集中まで("The Inner Game of Golf", 1981)』、日刊スポーツ出版社、1982年などが脚光をあびる。
- 1992年: 米国にてコーチ・ユニバーシティ(Coach University)設立
これは、実はわたしがかなり補ったものだ。 ほとんどのページは、コーチ21のコーチングFAQのコーチング全般についてを元に、大学生がレポートをうつしたみたいに、劣化コピーされた内容が出典も明らかにされないまま、紹介されているものが多い。
それはともかく、上記の情報を読んでも、結局、コーチングというのがいかなるテクニックの集大成なのかは、ほとんどわからない。 というのも、「コーチ」という言葉がどのように使われたかを紹介しているだけで、実際に現在コーチングと呼ばれているものがどんな起源を持つのかを書いたものではないからだ。
iBDとコーチ21の代表者の伊藤守が比較的初期に書いたコーチングの本である『人を動かす10の法則』、ディスカヴァー21、1999年を読んでみる。 すると、そこに書かれているのは、上記の「歴史」の中に出てくる人々の業績というよりは、NLP(神経言語プログラミング)という一種のマニュアル化されたセラピーの技法だったりする。 また、水口幸広著、『カオスだもんね! (7) 旅情編』、アスキー出版局、2001年で紹介された際に出てくる手法は、計画を立てて、それを実行するためのマネージメント・テクニックだ(これは自己啓発セミナーなどでもよく用いられている)。
ところで、コミュニケーション・トレーニングの「コミュニケーション・トレーニングとは?」という記事を見つけた。
これによると「 1970年代アメリカでティモシー・ガラウェイ、ワーナー・エアハード、ピーター・M・センゲと言った人々によって、コーチングの基礎が築かれ、スポーツの分野のみならず、さまざまな分野への導入が試みられた。」とある。 この記事と、上の歴史の記述で一致しているのは、ティモシー・ガラウェイ(ギャロウェイ、ガルウェイ、etc.)程度である。 更に、ワーナー・エアハードというのは、1970年代と1980年代にいろいろな意味で話題になったest(Erhard Seminars Training)という自己啓発セミナーの創立者だ。 このページの作者の瀬戸口千佳という人は、プロフィールを見ると、岸英光のコーチング講座に参加したとある。 岸英光は、コミュニケーション・トレーニングという団体の代表だ。 彼のコーチングの記事が、2004年2月23日の産經新聞に取り上げられたときの見出しは「"モダンな禅"コーチングに熱視線」だった。 ワーナー・エアハードのestのウリは、「禅の悟りが得られる」だったことをふと思い出してしまった。
はてさて、コーチングとは一体何なのか。 本当は、「コーチング」というものがあるのだが、勝手にコーチングを自称している人がいるのか。 それとも、コーチングというのは「看板」で、その中には、企業研修や、神経言語プログラミングや、交流分析や、自己啓発セミナーや、自分で開発したテクニックなどを詰め込むのは自由なのか。 わたしには、なんとも調べれば調べるほどわからなくなってくるのだった。
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