犬は勘定に入れません
コニー・ウィリス著、大森望訳、『犬は勘定に入れません -- あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』、早川書房、2004年を読む。
これは完全に個人的な妄想だが、いくつか歴史には、何か不可思議な事件を突っ込めそうな「隙間」みたいなものがあるような気がする。 それは、日本だったら明治の終わりから昭和のはじめで、イギリスだったら19世紀の後半から20世紀の頭くらいの時期。 この辺りの時代は、オカルトじみた物語や、怪盗や探偵物の舞台として、いい感じの風情をかもしている。
本書『犬は勘定に入れません』は、時間旅行が可能になりつつある21世紀の史学部の学生が、ヴィクトリア朝のイギリスに派遣されて、ひどい目に会いまくるコメディ作品だ。 作者のコニー・ウィリスは、イギリスではなく、アメリカのコロラド州デンバーの生まれだが、この作品のギャグは、ヴィクトリア朝の雰囲気やバカさ加減を感じさせるようなものになっていて、とにかく楽しめる。
21世紀に、第二次世界大戦で消失した大聖堂を復元しようとする猛女にこきつかわれて、大聖堂の収蔵品の「主教の鳥株」の行方を探す羽目になったネッド・ヘンリーくんは、激務のあまり2週間の安静を言い渡される。 猛女の魔の手を逃れて、ヴィクトリア朝で用事を足すついでに休養してくるように命じられるが、ドタバタの挙げ句、任務不明のまま、時間の彼方で珍道中を繰り広げることになる。 しかも、タイムパラドックスから、カオス的な歴史のふるまいに大打撃を与えそうになって、その収拾にかけずりまわる羽目に・・・というお話。 出てくる人物は、どれもこれも変な人物ばかりで、降霊会に夢中な夫人とか、金魚に命をかける貴族とか、わがままでセンスが最悪なお嬢さまとか、ブルドッグを偏愛する青年などなど。
わたしは、ここのところ、スケジュールがめちゃくちゃで、もうぐったりという感じだった。 そこへ、この本が現れた。 この本は、まさに逃避するのにうってつけ。 おもしろくて、しかもそれなりのボリュームを持っているという・・・代物だった。 なので、そんなことをしている場合じゃないのに、思わず読んでしまった。 それでも、気分は回復したし、充実感もばっちりで、読んだだけの意義は十分あったので、よかったことにしておこう。
関連ページ: コニー・ウィリス日本語サイト: 神は勘定に入れません
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