死海文書
買って寝かせてしまっていた、高橋正男著、『死海文書 -- 甦る古代ユダヤ教』、講談社選書メチエ、1998年を読む。 先日、グレアム・ジョイスの『鎮魂歌』を取り上げたが、かなり死海文書に関する記述がいい加減だったので、ふと、本書を本棚から取り出して読んだ次第。
ところで、最近、出版された土岐健治著、『はじめての死海写本』、講談社現代新書、2003年は、はっきり言って一般読者向けではなかった。 ある程度、聖書に関する基本的な教養がないと理解できない本だったと思う。 一方、1998年に出版された本書は、それなりに普通の人でも読むことができる本だった。
死海文書の記されたとおぼしき時代の、ユダヤを取り巻く状況が歴史をおって、かなり詳しく書かれているところが本書の特徴だと思う。 それから、学者によって意見の異なるところは、その旨紹介されている。 また、1998年に出版されたということもあり、先に出ていた『死海文書の謎』、『イエスのミステリー』という2冊のトンデモ本のこともあり、それに対するコメントもある。
あと、本書のポイントは、死海文書の中で一番長い「神殿の巻物」の翻訳が付いていることだろう。 この最長の巻物は、発見された後、靴箱に入れられ、床下に隠され、少しでも高く売れる相手を探して7年が経過し、その間に腐ったり、虫に食われてしまったという不幸な経緯を持つ(世の中に現れるまでの経緯も、まるで小説のようにドラマチックだったりする)。
「神殿の巻物」には、神殿の仕様、儀式の行い方、ケガレに関する決まり、性や信仰や戦いに関する決まりなど、多岐渡る事柄が記述されている(ので、「神殿の巻物」と称するのは必ずしも適切ではないという人もいる)。 死海文書を遺した人たちは、今のわたしたちの基準からすると、ものによっては差別的な事柄も含む、一種独特なケガレに関する思想を持っていた。 そして、そのケガレにどう対処するかということに関して、こまごまとした面倒な決まりがあったりして、興味深い。
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