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2004.08.16

ケルベロス第五の首

ジーン・ウルフ著、柳下毅一郎訳、『ケルベロス第五の首』、国書刊行会、2004年を読む。

これは、〈新しい太陽の書〉シリーズのジーン・ウルフによる初期連作短篇集。 原著は1972年に出版され、『「デス博士の島その他の物語」その他の物語』などとともに、その凄い噂は度々聞いてきた。 とは言え、せっかく翻訳された〈新しい太陽の書〉も人気がないのか、4巻目で一応の完結をみているが、その後に出た最後の一冊が翻訳されないまま、現在では限りなく入手困難になってしまっている。 他にも、『霧の兵士』などの〈兵士ラトロ〉、〈長い太陽の書〉、〈短い太陽の書〉などの長編のシリーズも一向に翻訳される気配がない。 もう、出ることもないのかとあきらめていた本書『ケルベロス第五の首』だったが、信じられないことに、本当に翻訳が出た。

ジーン・ウルフの作品は、驚くほど精巧に構成されており、伏線の張り方が尋常ではない。 〈新しい太陽の書〉も、1巻ずつ翻訳が出るたびに最初から読み返していたが、そのたびに新しい発見があった。 というわけで、本書も出た直後に購入したが、記憶が継続している間に一気に二回読めるだけの、時間が確保できるのを待って、読み始めた。

本書『ケルベロス第五の首』は、3つの中編「ケルベロス第五の首」「『ある物語』ジョン・V・マーシュ作」「V・R・T」から構成されているが、これまた技巧を凝らした作品だった。 設定としてはSFで、地球から遠く離れた双子の植民惑星を舞台にしている。 この惑星の原住民は、植民者たちのせいで絶滅したとも言うが、実は原住民は変身の能力を持っており、滅ぼされたのは植民者の方で、原住民たちは植民者に化けたのだという伝説もある。

「ケルベロス第五の首」は、〈ゴーメンガースト〉などを思い出させる雰囲気の作品で、少年の成長と出生の謎の物語。 「『ある物語』ジョン・V・マーシュ作」は、原住民に関するように思われる採集されたように見える物語。 「V・R・T」は、地球からやってきた文化人類学者による記録らしきものを読む看守のお話。 これら3つの話が、絡んで不思議な世界を作り出している。

特に、話の謎を深めているのが、さまざまなシミュラクラだ。 果たして目の前の人物は、本人なのかシミュラクラなのか、いやそもそも完璧なシミュラクラであれば、本人といかほどの差異があるのか。 不完全なシミュラクラだとしたら、どこにほころびが生じるのか。

一回読み終わってから、読み返してみると、最初は何のことやらよくわからなかった部分が、実は意味があったというのが見えてきたりして、なかなか楽しませてくれる。 しばらくは、楽しめそうな感じ。

なお、今度出る「S-Fマガジン」はジーン・ウルフ特集、翻訳の雑誌「eトランス」では刊行記念のトークショーの内容が収録されるとのことで、これも楽しみ。

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