フロイトと作られた記憶
フィル・モロン著、中村裕子訳、『フロイトと作られた記憶』、岩波書店、2004年を読む。
世の中には、クライアントが幼いときに虐待されていて、それがあまりにつらいことだったので、大したことがなかったと思い込んでいたり、あるいは記憶自体を抑圧して封印してしまっていたりするのだなんていう、強い信念を抱いてセラピーを行うセラピストがいる。 そういうセラピストに誘導されて、家族による性的虐待、しかもそれがご近所一帯が悪魔教のカルト集団でその儀式の一環だったなどという、ありもしない記憶を作り出してしまい、裁判にまで訴えて、あわれな老齢の父親が懲役になってしまったという事件がアメリカであった。 この辺の事情は、エリザベス・F・ロフタス、キャサリン・ケッチャム著、仲真紀子訳、『抑圧された記憶の神話 -- 偽りの性的虐待の記憶をめぐって』、誠信書房、2000年や、ローレンス・ライト著、稲生平太郎、吉永進一訳、『悪魔を思い出す娘たち -- よみがえる性的虐待の「記憶」』、柏書房、1999年や、矢幡洋著、『危ない精神分析 -- マインドハッカーたちの詐術』、亜紀書房、2003年あたりに詳しい。
本書は、岩波のポストモダン・ブックスというシリーズの一冊で、100ページ程度の非常に薄い本。 ありもしない記憶を甦らせてしまった偽記憶症候群に関して、それを巻き起こしたセラピーを批判する際に、抑圧記憶というのはそもそもフロイトが提唱したものであるという批判が行われることがあるが、本書では積極的にフロイトを弁護している。 そもそもフロイトはそんなことは言っていなくて、悪いのは勝手に記憶を蘇らせているセラピストたちや、勘違いしてフロイトを批判している連中だという主張。 それ以上でも、それ以下でもない内容だった。
あくまで本書に引用された範囲では、フロイトは、甦ってきた記憶は、必ずしも真実かどうかはわからないということも言っていたようだ。 しかし、その一方で、著者の引用する数少ない範囲でさえ、フロイトは病状を「抑圧」という反証不能な概念でもっともらしく解釈してみせたり、さらには性的虐待は多いなどと主張してみたりしているんですが・・・。 どこまでこの著者を信用していいのか・・・。
ふと、思い立って、著者名で検索してみたところ、The Association For Meridian Energy Therapies(経絡エネルギー療法協会)などというアレな団体のページがマッチ。 この団体には、EFT、TFT、TAT、etc. などのタッピング(ツボを叩くこと)による心理療法を行っている人が集まっているようだ。 たとえば、TFTとは、思考場療法(Thought Field Therapy)の略で、簡単に言えば、ツボを叩くとトラウマが治るというんだけど・・・。
それで、フィル・モロンのページによると、この方、METやEFTというタッピング系のセラピーの上級の資格までお持ちとのこと。 さらに、"EMDR and the Energy Therapies -- Psychoanalytic Perspective"という、EMDRとタッピング系のセラピーを精神分析の視点から読み解こうという本の著者でもあるとのこと・・・。 ちなみに、EMDRというのは、眼を高速に左右に動かすとトラウマが治るとかいう・・・。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント