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2004.10.21

グノーシス

筒井賢治著、『グノーシス -- 古代キリスト教の〈異端思想〉』、講談社選書メチエ、2004年を読む。

キリスト教の正統が成立していった中で、結果として主流派ではなくなってしまったものがたくさんある。 その中でも、ある特異な思想を持っていた人たちのことをグノーシス派という。 グノーシス派の思想は、次のようなものだ。

  • この世を創った神は愚かで、悪である。そして、実はこれとは別に、至高の善なる神がいる
  • 人間も、愚かで悪な神が創った。ただし、この中に至高の善なる神の断片が、わずかながら含まれている。
  • そのことに人間は気づいていない。至高の善なる神から使いがやってきてくれて、気づくことにより、救済される

それで、この世を創った神とは旧約聖書の神で、一方、至高の善なる神とはイエス・キリストを使わした神であると考えることもある。

このように、正統派になったキリスト教とは随分異なった教えを持った、グノーシスの人々の宗教運動を、非常に明解に、しかもとてもおもしろく紹介したのが、本書『グノーシス』だ。 これまで、グノーシスに関する本は、高価なもの、雑多な論考を集めたもの、一人の研究者によって書かれた大著、etc. と、実にいろいろ出版されてきた。 その中でも、この本はとてもわかりやすく書かれている。

そもそも、正統派になったキリスト教や聖書には、いろいろな矛盾が含まれている。

わたしには、小さい頃、熱心なキリスト教の信者が身近にいた。 そのため、教会の日曜学校や、幼児教育、子ども向けの聖書物語などにより、キリスト教のお話には親しんでいた。 それでも「一体、神とは何なのか」とか「なぜ、神がいるのにこの世の中はこうなっているのだろうか」とか、実際にイエスの教えを実践することの不可能性とか、いろいろと思い悩むことがあった。

そんなわたしだったが、漢字が十分読めるようになり、厚い本も読めるようになった頃に、はじめて子ども向きでない聖書を読んでみた。 そして、非常に驚いた。 そこには、非常にバイオレンスで、不条理な物語が書かれ、脅しとセットでいろいろな指図が書かれていたからである。 更に、旧約の方では、神の民、そして神自身でさえ、残酷な行いをしたりもする。

わたしは、不思議に思った。

みんなは、これを信じているのだろうか? いや、そもそも、ちゃんとこれを読んでいるのだろうか? 読んでいるとしたら、これらの矛盾や不条理は、どう思っているのだろうか?

実行することが事実上不可能なことが、実行するようにと書かれている。 そのことに対してどう考えているのか? しかも、実行しなかった場合、今、この瞬間に来るかもしれない最後の審判の結果、地獄の業火で永遠に苦しむかもしれないというではないか。

一体、どうしたら、これらの問題と決着が付けられるのだろうか?

もしかして、昔の人は、こういう矛盾や謎にも気づかなかったのだろうか? ただただ、ありがたく信仰しつづけてきたのだろうか? そういう時代だったのだろうか? そして、歴史的事情によって、現在まで、このようなものが信仰されてきたのだろうか?

うーーむ・・・。 現代人としては、どう生きるべきなのか?・・・

それだけに、ハンス・ヨナスの『グノーシスの宗教』(秋山さと子、入江良平訳、人文書院、1986年)や、いくつかの外典や偽典やタルムードなどを知って、非常に感心した。 旧約の外典や偽典、タルムードなどは、新約以前の時期に。 そして、グノーシスはキリスト教の成立期に、そういったことにちゃんと疑問を抱いていた人もいたということを示していたからだ。

たとえば、グノーシスというのは、「神が非常に素晴らしい存在だとしたら、何故、この世に悪は存在するのか?」という疑問に対して、理論的に説明しようとした挑戦だ。 この難しい問題に取り組んだ結果、グノーシスのウァレンティノス派やバシレイデースは、やたらにややこしい宇宙論を作り出す羽目に陥ったりする。 そして、そこまでやっても、成功しているとは言い難いものしかできなかったわけなのだが・・・。

本書で紹介されているマルキオン派から独立したアペレスという人物の話も傑作だ。 アペレスは、次のように主張したという。

聖書に書かれている通りにノアの方舟を作っても、せいぜいゾウが4頭程度しか積載できない。 よって、すべての動物をつがいで収容できるはずはない。 つまり、聖書はデタラメなのだ・・・と。

びっくりするほど、理性的な批判だと思う。 しかも、この話は2世紀末のことなのだ・・・。

グノーシス派は、初期のキリスト教の異端であると見なされている。 現代では、キリスト教の異端と言えば、19世紀以降誕生し、現在でも勢力をふるっている、いくつかの団体のことを指す場合が多いと思う。 しかし、それらの語るハルマゲドン、キリストの再臨や伝説よりも、2世紀頃の各派の話の方が、はるかに現代的で理性的に思えてくるではないか。

そんなおもしろくて、刺激的な連中の話を、本書はとても楽しくわかりやすく紹介しているのである。

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