なんでも説明できるらしい理論
ある本を読んでいて、思い出したことがあったので、備忘録として。
昔、ニュートリノの研究をしている素粒子理論物理教の熱心な信者さんとお話をしたことがある。 そのとき、わたしは、とある文脈で、素粒子の相互作用が解明されたとしても、世の中のすべてのことが説明できるわけではないという話をした。 すると、その信者さんから、そんなことはない、人間のことでも、なんでもかんでも、とにかくすべてのことが説明できるのだ。 お前は物理というものを理解していないダメなやつである、という感じの反論をいただいた。
しかし、残念ながら、物理の話だって、エレメンタリーな電磁相互作用のことはよく分かっていても、それだけで複雑な構造をしたものの物性が相当な精度でなんでもかんでも説明できているわけではない。 毎年新しい発見があるし、わかっていないことだってある。
ところが、素粒子の相互作用が解明されれば、そういうことはすべてなくなると、そういうご信仰をお持ちのようだった。
物事には、レイヤーがあり、それぞれのレイヤーのレベルで、現象がよりよく理解できる理論が普通あったり、作ろうとする努力が行われている。 それで、あるレイヤーの理論が、下位や上位のレイヤーの理論と、うまく統合できると便利だ。 しかし、たとえば2体の相互作用の理解と、それが多体や場に拡張された場合に、現実的にどれだけちゃんと計算できて、意味がある結論が得られるかなど、なかなか難しいことがあることもある。 それだけにそれができると意味があることだったりするのだが。
わたしは素粒子の相互作用の解明には、そのレイヤーにおける理論の確立という意味で、十分大きな意義があるとは思う。 しかし、それだけでなんでも説明できるというのは・・・。 もちろん、世の中、必ずしもわたしが出会ったような信者さんばかりでもないということを断っておこう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント