トリポッド4凱歌
ジョン・クリストファー著、中原尚哉訳、『トリポッド 4 凱歌』、ハヤカワ文庫SF、2005年を読む。
これは、以前、紹介した《トリポッド》シリーズの最終巻。 《トリポッド》シリーズは、3本足の鋼鉄のマシンを駆る、異星からの侵略者に地球が支配され、人々は大人になると頭に思考をコントロールされるキャップをかぶせられているという世界が舞台。 キャップをかぶせられる前に、逃亡し、支配を逃れた人たちと出会ったウィルたち少年が、侵略者と立ち向かうというお話。 後に書かれた1巻では侵略のはじまり、2巻ではウィルの逃亡、3巻ではウィルの侵略者の都市への侵入といった内容になっていた。
本書4巻では、侵略者への反撃が描かれる。 これは、地球全土の支配者に、少数の人間で攻撃をかけるという話で、そもそも普通に考えたら無理な話。 そういうわけで、侵略者たちが、基本的に油断していることと、拠点は全部で3つ、さらに幸運にも弱点が発見されたという設定により、なんとか光が見えてくるという、結構苦しい展開だった。 読んでいて、侵略者に反撃する話を書きながらも、著者は実際には、地球を取り返してからのことに気持ちが傾いていたのではないかという気がした。
著者は、地球を取り返しながらも、結局、国々が侵略前のように、互いに仲違いして分裂してしまうという終わりを用意した(希望は残しながらも)。 作品の中でも、侵略されて、心を支配されているけれど、争いのない世界。 そして、侵略前の、人々が戦争していた世界。 それら2つのどちらがいいのだろうかという、問いが発せられている。
それから、ハリー・ポッターの場合にも似ているのだが、本作の主人公のウィルは、ねたんだり、うらやましがったり、浅慮から暴走したりする。 それでいて、結果的にはうまく行く。 ストーリーをスリリングに展開させるためのテクニックの一つなのだろうけれど、主人公は必ずしも優等生ではない。
自由になると争ってしまう人類や、ダークな感情を抱いている主人公など、人間の影の部分が書かれてしまっているところが、独特な読後感として残る。 とはいえ、著者は、そんなダメダメな人間にも希望を持っているんじゃないかと、思えてならないのだけれども。
過去の記事: 『トリポッド1襲来』、 『トリポッド2脱出』、 『トリポッド3潜入』
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