風神秘抄
荻原規子著、『風神秘抄』、徳間書店、2005年を読む。
本書は、《空色勾玉》シリーズや《西の善き魔女》シリーズの荻原規子の最新作。 舞台設定は、《空色勾玉》シリーズに準拠しているが、独立に読むことができる。 時代は、平家の天下の時代の終焉を予感させる平治の乱から始まる。
主人公の草十郎は、平治の乱の敗者である源義朝の側の武者。 独特に笛を吹き、身のこなしは軽く、さらに鳥の王の一族の言葉を理解する能力を持っていた。 もう一人の主人公は、糸世(いとせ)。 富士の麓で生まれ、今は遊人として舞を舞う。 偶然出会った、この二人の笛と舞は共振し、時空をよじらせる力を持っていた。 それが、永く背後から政を牛耳り、また遊び人としても悪名高い後白河上皇の謀に巻き込まれ・・・というお話。 なお、この物語には、源頼朝も登場し、その後の鎌倉幕府への長いどろどろした歴史も暗示されている。
その一方で、この物語は、人を知らない少年が、少女への恋を通して、人を知る物語でもある。 草十郎は、人間でありながら、根本的なところでは人の世界には属していない。 それでいながら、不思議なくらい草十郎が選ぶのは、人の世界だ。 仮に人の世界を選ばなければ、神代の再現さえ、あり得たかもしれないことも暗示される。 このような選択は、感性のなせる技なのか、少女への想いのゆえなのか・・・。 いずれにせよ、人の世界の大切さをうたいあげるところが、非常に荻原規子らしい作品にしている。
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