こころ
夏目漱石×榎本ナリコ、『こころ』、小学館、2005年を読む。
本書は、夏目漱石の『こころ』を、榎本ナリコが現代の時代設定でコミック化したもの。 わたしは、『こころ』に対する思い入れがあったせいか、なんとなく違和感を感じてしまった。
『こころ』と言えば、朴訥とした青年Kと「私」の苦すぎる青春を、年を取り「先生」と呼ばれている「私」の視点から語った作品。 わたしは、はじめて読んだときに、若者らしい迫力に満ちた生真面目さ、立ちはだかる不完全な現実、たぎるような情念が、文に定着させられているすごさを感じた。
これは「私」の視点からの物語で、今にして思えば、雰囲気には、視点が大きな役割を果たしていたような気がする。 しかし、マンガという表現では、「私」として「S」という人物が描かれ、その結果、「私」の外部に視点移動して、3人称的な語りになってしまう。 また、わたしは榎本ナリコの絵から、性や背徳感に独特な印象を感じてしまう。 その辺が、変わった感じをかもしだしているのかもしれない。
改めて読み返してみると、あくまでも原作は『こころ』だが、がっちりと榎本ナリコの作品になっていると感じた。
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