スラムオンライン
桜坂洋著、『スラムオンライン』、ハヤカワ文庫JA、2005年を読む。
本書は、《よくわかる現代魔法》シリーズの桜坂洋による、対戦格闘ゲーム小説。 普通は、対戦格闘ゲームの小説というと、対戦格闘ゲームのゲーム内ストーリーを小説にしたものが多い。 しかし、本書は対戦格闘ゲームに何かを求めた大学生が主人公。
主人公は、リアルでは、パっとしない大学生。 一方、ネットのMMO対戦格闘ゲームでは、最強の格闘家をめざしている。 現在のところ、強くて、ゲームの特性をよく知っていて、素質もある。 それでも、最強ではなく、その座を求めて、日々努力している。 ここのところ、ゲームには、めっぽう強いらしい謎の辻斬りが出現し、その敵との対戦を求めている。 また、リアルでは、優等生だが、変わった少女と出会い、だらだらとした日々を送る。
そもそも、ネットワーク・ゲームは、ほとんど何も残してはくれない。 いや、ネットワークにつながらないゲームにしたところでそうだろう。 いきなり、就職活動で、「学生時代に力を入れていたこと」とかいうエントリーシートの記入欄に、「MMOPRGで夕方から昼まで毎日プレイすることに力を入れていました。他のプレイヤーとのチャット、レベル上げ、イベントと楽しく過ごしました」なんて、さすがに書けなくて、頭を悩ませることになるに決まっている。 チャットだって、SNSだって、かなりの割合そうだ。
ゲームで強くなっても、それはゲームの中でだけで、あまりリアルに役立つスキルには転化しにくい。 チャットで親しい人が増えても、ただ話してなれ合っているだけでは、リアルでずっとダベっているのと大差なく、それだけでは何かにならない。
人と一緒に過ごすこと。 何かのシンボル的な「力」を手に入れること。
それでも、ゲームになにがしかを求め精進していた、あの日の自分がいる。
そんな頃の気持ちを、びっくりするほどよく書き上げたのが、この『スラムオンライン』だ。
どうして強くなりたいのか。 何を求めているのか。 ゲームの世界で何をしたいのか。
うん、そうだ。 表紙裏に書かれているように、これは青春小説なんだ。 かつて書かれたことがない世界の。
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