« 2005年9月 | トップページ | 2005年11月 »

2005.10.31

子どもが壊れる家

草薙厚子著、『子どもが壊れる家』、文春新書、2005年を読む。

本書は、法務省東京少年鑑別所の元法務教官で『少年A 矯正2500日 全記録』(文藝春秋、2004年)の著者による新刊。 近年の少年による凶悪な犯罪を取り上げ、その原因を探るというもの。

内容は、まず、酒鬼薔薇聖斗、佐世保、長崎幼児突き落とし、ネオ麦茶などの事件と、その家庭事情を紹介。 そして、その原因がゲームやインターネットと「子どもを飼う」ような過干渉と読み解き、ゲームのレーティングが大事というふうにまとめている。

この著書には、問題がある。 論証しているわけではなく、エピソードを連ねて印象論でこのような深刻な問題を論じているところだ。 現代のように、ゲームやインターネットが普及し、少子化により親が子どもにかまう時間が増えている時代に、子どものいる家に共通項を求めれば、ゲーム、インターネット、過干渉という項目があがってきても不思議ではない。 この著書の論法であれば、取り上げたい現代的な傾向があれば、なんでも原因にすることができてしまうだろう。 また、ゲームの問題に関しては、批判を集めている「ゲーム脳」を中心として、数々の独立の研究をコラージュして、専門家の見解として取り上げている。 いまさら、いくらなんでも、これだけ問題が指摘されている「ゲーム脳」はないんじゃないだろうか。

改めて調べて見ると、この著者は、「ゲーム脳」の影響はここまできた!? 女たちはなぜパンツを見せるのか本当に危ない! ゲーム脳が蔓延の恐怖などの「ゲーム脳」関係の記事を過去に書いている。 そればかりか、ゲーム脳に犯される子供達などの講演テーマで講演を引き受けていたりもする。

うーん…。

未読だった『少年A 矯正2500日 全記録』も読んでみた。 本文はともかく、あとがきの記述が気になった。 まず、著者が法務省東京少年鑑別所法務教官をしていたのは、十数年前から2年間。 つまり、この記述が正しければ、1997年に事件を起こした少年Aとはオーバーラップはなかったということだ。 要するに、この本は、10年以上前に辞めた職場における、守秘義務に閉ざされた業務のことを、ジャーナリストが外部から取材して書いたものだということなのだ。 もちろん、著者は、少年Aと職務上で面識があったとは書いていない(そもそも、職務上知り得たことを守秘義務に反して公にしたら、それはそれで問題だが)。 しかし、たとえば冒頭もそうだが、あたかも見てきたような書き方をしており、その辺はミスリードしやすくなっている。 また、少年鑑別所の仕事はハラスメントをきっかけに辞めざるをえなくなったという記述や、取材に関して少年院のスタッフとトラブルがあったことなども記されている。 そうした記述を読んでいると、どうも何か別なものを、理想や正義といったものに仮託して語っているような気が、わたしにはしてくるのだった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.30

機動戦士ZガンダムII 恋人たち

「機動戦士ZガンダムII 恋人たち」を観る。

本作は、TV版「機動戦士Zガンダム」を、全3作の映画として、新しい解釈を入れて作り直した作品の第2作目。 以前、1作目を紹介している。

たぶん、TV版を見たことがない人をターゲットにしていない映画だとは思うが、さすがに人間ドラマをダイジェスト版でやるのは、かなり無理があるような気がした。 カミーユとフォウのラブ・ストーリーは短くて、ほとんど「ニュータイプだからわかり合えて、一瞬にして恋に落ちたのです」とか言ってくれないと説得力を感じないくらいだ。 一方、サラは大活躍で、見せ所が多かった。

事前には、声優陣の変更(特にフォウ)が問題にされていたが、新しい声優陣は違和感なく演じていたように思う。 逆に言えば、違和感がないので、元のままでもよかったのではという気もした。 ただ、1作目でも感じたが、ハヤトだけは、もうちょっと低い声の方が合っているのではないかと思った。

さて、この映画版のZガンダムは、これまでのところ、TV版との大きな違いといえば、登場人物たちの恋愛というよりは、セクシャルというか、スケベな描写が増えたことだ。 人というのはこういうものだよというのが、メッセージなのか、どうなのか。 果たして映画版に付けられた「新訳」という看板の真価は、最終作「機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛」で発揮されるのだろうか?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.29

不思議通販 けろりん堂

水上航著、『不思議通販 けろりん堂』、講談社コミックスなかよし、2005年を読む。

本書は、相手と入れ替われるアイテム「入れカエル」を媒介にした、少女の自信回復と恋愛成就の物語。 お話は、春名倭子のところに、ある日、ピンクのカエルのパペットが届く。 実は、このパペットでキスをすると、キスした相手と入れ替わる「入れカエル」というアイテムだった。 家族全員が芸能人だけで、かつて舞台の上で恥をかいたために芸能界アレルギーな倭子。 しかし、あこがれの人は、そのときに助けてくれた秋良くん。 秋良くんに近づくために、「入れカエル」が大活躍するというもの。

この漫画に出てくる、憧れの相手である秋良くんは、才能はあるけれど、気分屋で、ちょっと何を考えているのかわからないタイプ。 でも、親しくなると、その人間味とかやさしさとか魅力がわかったり、実は情熱的な恋をする人だったりする…。 というわけで、そういう意味では、これって女性にとってのツンデレ(普段はツンツンしているけれど、二人っきりになるなどすると急にやさしく甘い展開が…)系のキャラなのでは。 考えてみると、このタイプの憧れの彼というのは、少女マンガではよく見かけるような。 女性向けツンデレって、伝統的なパターンかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.28

サイセミナーズアジア

自己啓発セミナーにもいろいろあるが、サイセミナーズアジアのWebページは独特だった。 その歴史のページを見ると、セミナーの創始者のトーマス・D・ウィルハイトは、ウィリアム・ペン・パトリックから教えを受け、また後にパトリックゆかりの地、ハイバレー牧場に本部を置いたと書かれている。 このような内容は、元々はアメリカの本部のWebページに2001年前後まで書かれていたものだが、現在はアメリカのページからはパトリックの名は消されている。

それで、このアメリカのページから名前の消されたウィリアム・ペン・パトリックという人物だが、実は、昭和40年代にアメリカと日本で問題になり取り締まられた、化粧品のマルチ商法ホリディ・マジックの社長である。 また、ホリディ・マジックの研修は、同じくパトリックが代表をしていたリーダーシップ・ダイナミックス・インスティチュート(LDI)という関連会社で行われていた。 このLDIの研修というのは、精神的、肉体的に参加者を虐待するものであり、場合によっては性的虐待まで行われていた。 この辺の話は、福本博文著、『心をあやつる男たち』、文春文庫、1999年や堺次夫著、『マルチ商法とネズミ講 -- 洗脳商法の恐怖』、三一書房、1979年に書かれている。 なお、LDIは、現在の自己啓発セミナーのルーツの一つである。

そういう、ある意味、独特の団体だったサイセミナーズアジアだが、近年、アメリカの本部との間でもめているようだ。 大変興味深いです。

参考: PSI卒業生のための掲示板。 自己啓発セミナー対策ガイド:相談・情報掲示板 「サイセミナーズアジア情報」からの情報

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.27

CHERRY

筒井旭著、『CHERRY』、マーガレット・コミックス、2005年を読む。

『電車男』の認知とともに、ある意味、「オタク」という存在が受け入れられる素地が作り出された。 これは、キモくて、ダメで、これまで理解できない、したくないという対象から、キモくて、ダメだけど、それはそれで一つの世界があって、理解できないものでもないという対象へ、オタクが転換した瞬間だった。 かくして、「オタク」というシンボルが民間人からも消費されうる時代が到来した。

本書は、そのような時代背景のもと、「オタクの自信」を描いた作品。 題材は、オタクと女装と入れ替わりと恋愛。 お話は、オタクの少年が、意識不明で入院した双子の妹に化けて、代わりに恋愛をするというもの。 オタクであることが、世間一般では蔑んで見られるが、そこからのブレを積極的に描いている。 漫画としては、普通におもしろかった。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2005.10.26

アキバ署! 1

瀬尾浩史著、『アキバ署! (1)』、講談社、アフタヌーンKC、2005年を読む。

本書は、IT系やオタク系のトラブルなどを題材にした作品。 お話は、いろいろあって、外神田警察署に、元キャリアで凄腕のハッカーの女性・久遠あまねが警部補としてやってくる。 そして、ITのことがよくわからない不良巡査・伊武一弥と組んで、ハイテク犯罪相談室に勤務することになるというもの。

取り上げられる題材は、ファイル交換ソフト、不正アクセス、お子様ハッカー、メイド喫茶と絵画の悪徳商法など。 IT系の話は、近年のセキュリティ上の問題が、アンダーグラウンド・サイドから見えてくる。 一方、メイド喫茶と絵画の悪徳商法は、秋葉原でよく見かけられるものだが、IT系の話題ではない。 というか、メイド・コスプレイヤーに関して誤解を招くような(そもそも誤解するような人は読まないから問題ないという話も)。

あと、本書でも書かれている通り、キャッチセールスには、消費者相談の窓口で相談して、クーリングオフの制度を活用しよう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.25

改訂第二版 FreeBSDビギナーズバイブル

後藤大地著、『改訂第二版 FreeBSDビギナーズバイブル』、毎日コミュニケーションズ、2005年を買う。

本書は、最新のFreeBSDの解説書。 ビギナーとタイトルにはあるが、きっとすごくいろいろな人に役に立ちそうな本。 なんと、総ページ数は約1,000ページ近くもある。

FreeBSDは、バージョンが5以降になって、いろいろな他のシステムや新しい機能などの取り入れが積極的に行われ、随分と進化した。 これは、OSそのものが変わったということでもあるし、利用可能なアプリケーションなども大きく変わってきたということだ。 そのため、従来のUNIXシステム管理やアプリケーションの知識では、十分には対応できなくなってきている。 たとえば、さっき、portsを見てみたところ、なんと13,685種類もある。 もう、どれを入れたらいいのかわからない世界だ。

本書では、新しくかつおすすめの機能やアプリケーションなどを、積極的に紹介している。 たとえば、ウィンドウマネージャ、日本語入力システム、印刷機能、開発環境って、今時、どうなっているの? どれを入れると便利なの? といった疑問も氷解。 最近のFreeBSDに着いていけてないという人には、福音となる一冊だ。

なお、この1,000ページ近くもある本でも、自分がコアに使っているものなどは、記述が足りないなあと感じる部分もある。 いかにFreeBSDとそれを取り巻く状況が拡大しているのかを思うと、茫然としてしまう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.24

プロフェシー

UFOなどの怪事件を取材したジョン・A・キールの『プロフェシー(旧訳: モスマンの黙示)』が、映画になっていたというので、見てみた。 マーク・ペリントン監督、リチャード・ギア主演、「プロフェシー」、2002年作品。

本作は、原作のルポをシャッフルして、ほとんど完全に別なストーリーとして作られた、毒電波系ホラー映画。 よって、実話が元になっているとは言え、本作は実際には実話の断片を元に創り出されたフィクションである。

お話は、クリスマス・イブに事故を起こしたワシントン・ポストの記者ジョンは、この事故により妻が脳に疾患を抱えていることを知る。 妻は、結局、死亡してしまうが、巨大な蛾人のようなスケッチを多数遺していた。 ある日、取材に行く途中で、車が立ち往生してしまうが、そこは何故か走っていた場所から遠く離れたウェストヴァージニア州のポイントプレザントだった。 この町では、人々が奇妙なものを目撃するという事件が多発しており、その中で、妻の死亡事件と関係しそうな手がかりをつかむ。 巨大な蛾人は何なのか? ジョンに襲い来る超常現象や予言の数々は何を意味するのか? …すべては謎のまま、終わるというもの。

筋らしい筋はなく、伏線らしく見えた話も全く活用されない。 ジョンも、謎の予言にふりまわされっぱなし。 普通のストーリーを求めて見るとブチ切れるかもしれない。 というか、よくこんなの上映したなあという。

原作は、1966年の事件を描いて1975年に出版されたもので、現在のUFO都市伝説で有名なグレイ型の宇宙人の陰謀なんてものは影も形もなかった頃のもの。 そういう意味で、相当に変(?)なUFO(?)ものの作品になっている。 というか、映画にはUFO自体出てこない。

この作品を一番理性的に見れば、嫁さんをなくした男が、狂気の淵へと墜ちていき、そこで見た毒電波世界を映像化したものだと言えるかも。 相当に変な映画だったことは間違いない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.23

シュヴァリエ 1

冲方丁原作、夢路キリコ漫画、『シュヴァリエ (1)』、マガジンZKC、2005年を読む。

これは、18世紀のフランスで、ルイ15世の下で働いた、女装の剣士シュヴァリエ・デオンを主人公としたオカルト漫画。 冲方丁原作ということで、当然、普通の話ではない。

お話は、殺した女性の血で詩をしたためるという、殺人鬼の詩人による猟奇事件が多発。 その犯人は、謎の女騎士(シュヴァリエ)スフィンクスに発見され、しとめられていく。 実はスフィンクスの正体は、パリ市警に勤めるボンクラ警官のデオンである。 デオンに、亡き姉の魂が宿るとき、スフィンクスが現れる。

一方、猟奇殺人鬼の詩人も、憑依的な存在。 取り憑かれると心身をおかされ、超常の能力を発揮するようになる。 殺しても、殺しても、次の犠牲者を見つけて取り憑いてしまう。

物語はまだはじまったばかり。 革命へと向かっていくパリで、一体、どんなアラベスクが描かれるのか、非常に楽しみ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.22

戦う司書と恋する爆弾

山形石雄著、『戦う司書と恋する爆弾』、集英社 スーパーダッシュ文庫、2005年を読む。

本書は、第4回スーパーダッシュ小説新人賞の大賞受賞作品を一部改稿したもの。 タイムトラベルしないタイムトラベルロマンスな物語といった感じの作品。

本書の世界は、死者の魂が地中で『本』という固まりになり、これには死者の記憶が結晶化されている。 そして、これが発掘されて、図書館に管理されている。 そんな世界だ。 神話的な時代から人の時代への変わり目に、世界はそのようになった。 その図書館に勤める武装司書は、並外れた戦闘力と知識を持っている。 この世界を破滅に導く神溺教団という影の組織があり、この団体との戦いが重要なポイントとなっている。

お話は、その武装司書の中でも最強であるハミュッツ=メセタを殺すため、記憶を奪われ洗脳され、爆弾を埋め込まれた少年コリオ=トニスが鉱山町にやってくる。 到底、そんな人間爆弾では、ハミュッツを殺すことなどできないわけだが、実は壮大な罠がはりめぐらされており…というもの。 偶然、鉱山町で出会った本の中に出てくる少女に、コリオは恋をし、だんだん運命の歯車に絡めとられていく。

非常に独特の世界観で、読んでいておもしろかった。 ちょっと、くせのあるわかりにくさが一部あるのだが、これがデビュー作ということなので、それも納得。 次作に期待。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.21

海の底

有川浩著、『海の底』、メディアワークス、2005年を読む。

本書は、先日紹介した『空の中』と同じシリーズだが、話は全く独立に読める小説。 お話は、米軍横須賀基地の一般開放の日に、巨大ザリガニの大群が、突如襲ってくる。 基地に来ていた少年少女たちは、自衛隊員とともに、自衛隊の潜水艦の中に閉じ込められてしまう。 彼らが救助されるまでの共同生活と巨大ザリガニと戦う警察の奮闘を描くというもの。

本書では、閉じ込められた少年少女たちの間で発生する人間関係のごたごたとそこからはじまる人間成長を緻密に描いている。 彼らは、近隣の住宅地の住人で、近所付き合いや学校における力学などから、いびつな人間関係を閉じ込められる前から形成していた。 それが、潜水艦に閉じ込められることで、逃げ場がなくなり、またそのような人間関係を形作る外因から遠ざかることで、自分たちの関係を振り返るきっかけが生まれる。

また一方で、警察の戦いのパートは、『パトレイバー』的な楽しみを感じさせてくれる娯楽作になっている。

楽しい読書体験だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.20

もえかつ 萌える就職活動

佐口賢作原作、峠比呂漫画、『もえかつ 萌える就職活動』、MdN、2005年を読む。

本書は、大学生の就職活動向けの漫画解説書。 「萌え」とタイトルにあるが、個人的にはキャラクターには萌えなかった。

内容は、映像研究会というどこかで聞いたことがあるようなサークルに所属するフィギュア好きな大学3年生・勝田秀一が、就職活動の女神さまフリージャに指導されながら、就職活動を行うというもの。 基本的なところはきちんと押さえられていて、読むと参考になりそう。 結局、就職活動は、ケース・バイ・ケースで、臨機応変な対応が必要なものの、仮想的なタイム・スケジュールがわかったり、ありがちな事例が解説されているのは意味があると思う。

問題は、解説が書かれている部分のフォントが読みにくい特殊なものが使われていること。 告白すると、昔、わたしも丸文字系のフォントで読み物系のコンテンツを作ってしまったことがあるが、よくなかったと思う。 特殊なフォントは印象を引き出すに使うのであれば悪くないが、読みにくいので長文には向かないです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.19

空の中

有川浩著、『空の中』、メディアワークス、2004年を読む。

本書は、電撃文庫系の作家さんをハードカバーで出版するという企画で出された本。 お話は怪獣もののジュブナイルだけど、わたしたちの社会というものを考えさせる作品。

舞台は、作者の出身地である高知と名古屋付近。 高知の上空で高度2万メートルを超えた航空機2機が謎の爆発事故を起こす。 実は、この事故は、巨大な平べったい電磁波をコントロールする能力に長けた未知の知的生命体との衝突事件であることが、だんだん明らかになる。 この白鯨と呼ばれる生物と日本政府が交渉中に、米軍の攻撃を受けて生物が分裂し、事態は最悪の展開を迎えるが…というお話。

実は、もう一つストーリーラインがあって、それは事故で亡くなったパイロットの息子が、謎のクラゲのような生物を拾う。 少年は、父を喪った心の隙間を、この生物との交流で埋めようとする。 それが、上記の事件と絡んでいく。

この本では、集団としての知的生命体というものが、非常にクローズアップされる。 白鯨は、高度な知性を有するが、唯一無二な個体で、社会的な振る舞いというものを理解できない。

たとえば、国同士の政治的な問題とか、国の意向と世論が一致しないとか、そういう極めてナイーブに見ると変に思えることが、集団には現実的な矛盾としていろいろ発生する。 また、個人や集団の本音と建前、プライドみたいなものも、相手があって成り立つものだ。

白鯨は、事件に巻き込まれ、このような問題とふれあうことになる。 また、自分自身が分裂してしまったことにより、否応なく、集団としての振る舞いを学ぶことになる。 これらが人間側の視点から語られていく。

物語の中で登場する社会運動団体の姿も示唆的だ。 個人のさまざまな思いが集まって、社会的な運動(社会運動団体に限らない)は構成されるが、それがいびつな形で成立してしまったケースを、本書では描いている。 また、関係のロバストネスみたいな話もあり、個人的には非常に考えさせられた。

と、こう書くと固い小説のようだけれど、実際には、少年の心の再生と、働く大人の挟持を描いた気持ちいい作品。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.10.18

なぜ、占い師は信用されるのか?

石井裕之著、『なぜ、占い師は信用されるのか? -- 裏コミュニケーション術「コールドリーディング」のすべて』、フォレスト出版、2005年を読む。

本書は、以前取り上げた『一瞬で信じこませる話術 -- コールドリーディング』の続編。 前著は読んでいなくても、一応ダイジェストが紹介されているので、本書だけでも読むことはできる。

本書で紹介されているのは、コールドリーディングを使って、相手の信頼感を得る方法。 具体的には、手品でフォースとも言われる狙った側を相手に選ばせる方法、ラポールを形成する方法、多くの人が自分に当てはまると思うような話し方、相手の悩みを当てたかのように探る方法、あたかも当たったかのように思える予想を述べる方法、主導権を握る話術、相手の反応を見ながら話の方向をコントロールして当たったように見せかけたり、はずれたのをごまかす方法などなど。

これらの方法が、非常に簡潔に例とともに解説されている。 相手にここに書かれてるような方法を使われたときに気づけるように、知っておくのは悪くないかも。

ふと、コールドリーディングの方法と称するものが、コールドリーディングの方法を使って、売り込まれていないかには注意したいものだと思った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.17

シャングリ・ラ

池上永一著、『シャングリ・ラ』、角川書店、2005年を読む。

本書は、地球温暖化の問題が本格的になり、二酸化炭素というか炭素の排出量が金に取って代わった未来の東京を描いた、「Newtype」の連載を単行本化したもの。

地球温暖化により熱帯化した東京が、大震災により崩壊した後に、アトラスという超ど級の高層巨大建造物の建設が始まる。 地上は森林にして捨て、すべてをこのアトラスに移行する…と見えた政策だったが、実際には富めるものだけがアトラスの居住権を得て、貧民は熱帯雨林と化した地上で難民生活を送ることなった。

この世界を舞台に、反政府ゲリラの総統になった元女子高生の國子、炭素経済に挑戦する投機家の少女・香凛、アトラスでわがまま放題な生活を送るやんごとなき身分で殺傷系の超能力をもった少女・美邦といった少女たちを中心に、異常な能力を秘めた奇人たちのバトルが展開される。 この戦いは、アトラス建造の真の目的を巡り、八岐大蛇っぽい存在や、三種の神器といったものまで入り乱れて、日本オカルト国造りなハイテク・エンドレス・バトルロワイヤルになっていく。

主要な登場人物は、簡単にはくたばらず、リベンジしまくり(ちょっとしつこいかも)。 とにかく、いろいろな形でのバトル・シーンが多いのが特徴。 少女たちの大活躍が見たい人におすすめ。

| | コメント (1) | トラックバック (2)

2005.10.16

世界の中心、針山さん

治りかけた風邪が再悪化して目がまわる。 こういうときに、宗教の勧誘のメールが来て、さらにくらくら。

成田良悟著、『世界の中心、針山さん』、電撃文庫、2005年を読む。

これは、何だかんだとえらい事件の傍らにいる、針山さんという人物に関係した事件の短編集。 短編では、怪談系の都市伝説と絡んだラブストーリー、頭のいかれた魔法少女、妄想系の神に操られた勇者という、それぞれ電波の入った事件が取り上げられている。

そんな事件の傍らにいて、なぜか事件をときほぐしてしまう針山さん。 こうなると、針山さんは、超常な存在か、普通の人だけどそれが世界の根幹と関わっているんだよというパターンのどっちかがありがちな展開だけど、先はまだ見えない。

とりあえず針山さんはおいといて、電波な事件のお話が好きな人におすすめだと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.10.15

諸怪志異(四) 燕見鬼

諸星大二郎著、『諸怪志異(四) 燕見鬼』、双葉社、2005年を読む。

これは、五行先生と見鬼の阿鬼が活躍する《諸怪志異》シリーズの最新刊。 このシリーズ、最初は単発の怪異ものだったが、3巻から阿鬼が成長して燕見鬼となり、「推背図」という予言書を巡る長編ものらしき様相を呈してきた。

本書はその続編…なのだが、なんと前の巻が出て既に6年経過している。 ストーリーが既に記憶の彼方だったりする。 しかも、書き下ろし58ページが追加されているのだが、結局話は次巻へ続く…。 考えてみれば、諸星大二郎の代表作である《西遊妖猿伝》も、一応、区切りはついたものの、実際には、続く…で終わっているようなもの。 《諸怪志異》シリーズもそうなってしまうんでしょうか。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2005.10.14

悪魔くん世紀末大戦

水木しげる著、『悪魔くん世紀末大戦』、チクマ秀版社 LEGEND ARCHIVES、2005年を読む。

本書は、貸本版の悪魔くんの続編。 つまり、密告された悪魔くんが、警察に連行される途中で射殺された後の話だ。 そして1987年から連載された本書の物語では、1997年に死んでいた悪魔くんが復活し、世界が一つになり、貧乏人や不幸な人のいない世界を作るために活動を再開する。

本書を企画したのは、国書刊行会を退職したばかりの朝松健で、その辺は解説で紹介されている。 第二話以降は、あまり関わっていないようだが、悪魔くんのつかう呪文がよりマニアック(?)になったり、太古に海底に封じられた邪神とかも出てきたりする。

なお、本書の場合も、話が完結していなかったりする。 これは、たぶんテーマと密接に絡んだ難しい問題だろう。

たとえば、何かと戦って勝利したとしよう。 でも、それだけで、世界が一つになって、貧乏人や不幸な人たちのいない世界が、到来するわけではない(そんなことをいうのは、政治的、宗教的な絵に描いた餅のイデオロギーくらいだ)。 そういう意味で、悪魔くんの戦いというのは、本来、何と戦っていいのかわからない戦いだ。 今までは、悪魔くんが台頭すると困る連中が、悪魔くんつぶしを狙って襲ってくるので、対処療法的に戦ってきた。 ここまでは、問題は明確だ。 うまくいけば、敵に勝てるかもしれない。 でも、本当に千年王国を到来させようとしたら、この敵に勝った後の、見えない何かに対する奮闘が必要になる。 それを描いて、納得のいく決着をつけるのはたぶん相当に困難だ。

悪魔くんの終わらない戦いに、人の世の複雑さを思わずにはいられない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.13

図解 近代魔術

羽仁礼著、『図解 近代魔術』、新紀元社、2005年を買う。

本書は、F-Filesというシリーズの第一弾。 このシリーズでは、ファンタジー系を中心に図解もので展開する予定らしい。 ちなみに、今後のラインナップはクトゥルフ神話、ハンドウェポン、錬金術、メイド、吸血鬼…。 一体、メイドをどう図解してくれるのか、楽しみです。

ところで、本書は『超常現象大事典』という大著の著者でもある、羽仁礼氏による近代魔術というかオカルティズムの本。 なお、魔術というと西洋のもののようなイメージがあるが、むしろ近代西洋のオカルティズムには東洋の叡智への憧れみたいなものもあり、本書にも東洋魔術が紹介されていたりする。 また、多くはスタンダードな内容なのだが、中には『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になったシオン修道会みたいな項目とかもある。

本書は比較的安価で、一通りの内容が書かれているところはいいかも。 ただ、近代魔術を図解したことでわかりやすくなったかどうかはよくわからない。 あと、ちょっと気になったのは、図解されている内容と文章の内容が必ずしも一致していないところがあるところか。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2005.10.12

ブルースカイ

桜庭一樹著、『ブルースカイ』、ハヤカワ文庫JA、2005年を読む。

空の色をした美しい本。 帯には「少女という概念をめぐる3つの箱庭の物語」と書かれている。

本書は、ライトノベルで活躍中の桜庭一樹の最新作。 1つ目の箱庭の舞台は中世のドイツ、2つ目の箱庭の舞台は2022年のシンガポール、3つ目のお話の舞台は2007年の鹿児島。 本作では、その3つを駆け抜けた少女・青井ソラと彼女に関わった人たちを描いている。 この3つの舞台には共通して、世界のシステムという、人々が繋がり合う何かがあり、それらとつながりを持った人たちのところに彼女は現れる。

本書はストーリーとしては、かなり微妙なお話だ。 逃れられない運命があったとして、それでもあがいてみることに、たとえそのあがく力さえなかったとしても、そこにどんな意味があるのかを、突っ走ってみたら何が見えるのかを、見てみたい人のために。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.11

萌え萌えブログの作り方遊び方

萌えブログ制作委員会編、『萌え萌えブログの作り方遊び方』、イーグルパブリシング、2005年を読む。

本書は、ブログの始め方やWebを利用した交流などに関するガイドブック。 お話は、インターネットでお金をかせごうという、貧乏な少女がパソコン部に入部して、ブログをはじめるというもの。

内容的には、首をひねるところが多い。 たぶん、ターゲットは「大きいお友だち」なんだろうけれど、SNS、ネカマの話やオフ会、リアルでのデートなどの話は、むしろ女の子向きの内容だったりする(んだけど、その割にはA感覚調教ブログの話なんかも紹介されている)。 この辺は、語り手が萌えキャラだけど、対象読者自身が萌えキャラと同一化が困難であり、またウケているブログのライターがヴァーチャル・ネット・アイドルのような萌えキャラではないという解消困難な相性の悪さから来ているような気がする。

また、ブログの次はホームページを作ろうという話が書かれているのだが、ここで紹介されているページの作り方は最近のXHTML+CSSではなく、バリバリのオールド・スタイルで、時代に逆行しているとさえ言える。

このキャラクターに萌えがあるかはともかくとして、それ以外はちょっとどうかと思った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.10

クルクルくりん 2

ハード・スケジュールの後の虚脱状態。 何かをするには体力と気力が足りなすぎて、何をしていいのか茫然。

ふと、目にとまった、とり・みき著、『クルクルくりん (2)』、ハヤカワコミック文庫、2005年を読む。

お話は、事故でいろいろな人格がインプットされてしまったくりんは、ショックを受けると別な人格になってしまい、それを元に戻せるのは同級生のイオくんのキスだけという、ギャグマンガ。

たぶん、この作品、ギャグとしては、微妙なところがあると思う。 毎週連載で読んでいれば、そこそこおもしろいのだろうけれど、1冊になってしまうと、単調に見えてしまう。 あえてやっているのかもしれないけれど、くりんの内面もいまいち理解しにくいところがある。

どちらかというと、今回読んで感じたのは、絵のポップさ、スタイルとセンス、それからあとがきでふれられているが、立体的な動きのある絵の魅力だった。 読んでいると、あの1980年代が甦ってくるような気がする。

なお、『クルクルくりん』は全3巻で、あと1巻の予定。 その後、『るんるんカンパニー』の刊行も予定されている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.09

神道オカルト草子

永久保貴一著、『神道オカルト草子』、ぶんか社 ホラーMコミック文庫、2005年を読む。

本書は、〈カルラ舞う〉や実話系のオカルト・コミックで一部で根強い人気を持った永久保貴一の1996年頃の作品を中心に収録した文庫。 土師宮神社の巫女の鷲宮麻美と若い神官の滝上が、呪詛や霊などを祓うというストーリー。 作者独自のロジックを背後に持ちつつ、因縁・祟り系の伝統的な日本的な心霊話と少女系のホラーの文法に忠実な作りになっている。

本書には、この〈神道オカルト草子〉のシリーズが6話に、歴史もののオカルト作品が4話収録されている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.08

一段落

体調が回復しつつある。 仕事も一段落。

しばらくこもっていたので、久しぶりに買い物に行くと、世界はこんなにもおもしろいじゃないという気分になる。 集中してものを作るのも好きだけど。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.07

風邪でぱたん

現在、風邪が悪化して療養中。 チキントマトシチューを食べて、養生。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.06

lunch box 1

いきなり風邪をひいてのどがガラガラです。 かなりつらい。

それはともかく、POP&ふくなが著、『lunch box (1)』、メディアワークス、2005年を読む。

これは萌え系の絵でブレイクした英単語本『もえたん』の絵を担当したPOP氏が絵を担当しているコミックス。 絵は『もえたん』通りというか、なんというか、非常にかわいいです。 キャラクターの方も、ちょっと人格破綻気味というか、ダークな一面も持ちつつ、おかあさんとか友だちとかに対する憧憬を抱いているという教科書通りな作りになっている。

お話は、魔法使いの少女2人組が、片方の少女らんちの母と、らんちの能力がバラバラに封印されているジグソーパズルの断片を求めて旅をするというもの。 パズルの話は、どろろ、イタダキマン、黒蘭、ツバサクロニクルなどを思い出させるような。 最終回で、パズルが膨張して必要なピースが実はあと一個だったとかならないといいけど。

萌え系のコミックとしては、よくできている作品だと思う。 しかし、この系の作品は、たくさん出ていて、既に飽和状態で、食傷気味だという人も多いかも。 そういう意味でもったいないような気が。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.05

最新WebサービスAPIエクスプローラ

Software Design特別編集、「最新WebサービスAPIエクスプローラ 〜Amazon、はてな、Google、Yahoo! 4大Webサービス完全攻略」、技術評論社、2005年を買う。

本書は、タイトル通り、代表的なWebサービスの外部から呼び出し可能なプログラムに関するムック。 いくつかの記事は、「Software Design」や「Web Site Expert」誌に掲載されたものだが、半数以上が書き下ろし。 AtomとRSSや、Ajax、Greasemonkeyなどの話も載っている。 最近注目されている類のWebプログラミングの雰囲気がよくわかっておもしろい。

わたしは、テキスト・ブラウザの愛好者で、そのためJavaScriptを使ったWebサービスにはこれまであまり乗り気でなかった(とは言え、使ってはいる。しかし、セキュリティに関する不安もある)。 しかし、最近、その底力のようなものを見せつけられて、随分心変わりしている。 古くて新しいこの技術の未来がとても興味深い。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.04

性別が、ない!

新井祥著、『性別が、ない!』、ぶんか社、2005年を読む。

本書は、「本当にあった笑える話」誌などに掲載された4コマ漫画を単行本化したもの。 著者の新井祥は30才までは女性として生活していたが、あるとき半陽陰であることがわかった人。 本書では、その生活を紹介している。

読んでみると、行動原理は男性的、趣向はどことなくゲイっぽさを感じさせる。 お話もけっこう生々しくどろくさく、あくが強いので、ファンタジックなトランスものが好きな人にはおすすめできない。 独特な性別をもった人の、普通の性を描いた作品だったと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.03

久しぶりの同人誌

久しぶりに同人誌を作っている。

仕事だけでも無茶なスケジュールなのだが、同人誌の制作で滅茶苦茶な状態。 ウェブログの方がここのところ不調になりまくり。

同人誌は、個人誌で、ジャンル・コードはアニメか情報・評論系の本で20ページ程度。 写真と地図が入った本になる予定でいる。 当初は、短編小説も書いていたが、ページ数が増えすぎるので、ボツにした。

そう言えば、はじめて同人誌を作ったときは手書きだった。 わたしは字がきたないので、いまいちうれしくなかった記憶がある。 ワープロが出現し、安価になったことで、この状況は大きく変わった。 当時、数万円したワープロをなんとか購入し、同人誌生活が加速していった。 とは言え、ワープロではそんなに自由にレイアウトが変えられないし、当時は互換性の問題からデータ入稿は少なく、プリントアウトされたものが渡されるのが普通だった。 これを場合によっては、1行ごとにばらして、ペーパーセメントで切り貼りして、レイアウトをした。 こうして作られた同人誌は、だんだんと商業誌に近い体裁のものとなっていった。 もっとも、わたしはデザインのセンスが悪かったので、どう見ても素人くさかったけれど。

今では、InDesignなどのツールがでそろい、随分デザインしやすくなった。 今回も、InDesignで作り始めたが、柔軟性の高さが、便利に感じるようになった。 一時は、同人誌の編集にLaTeXなどを使っていたが、現在となってはたぶん大量の文章、かつ単調なフォーマットのときに使うだけになりそう。

デザインツールの発展の一方で、プリントアウトというか、量産の方は相変わらずで、あんまり効率化されていないような。 インクジェットプリンタが発展したおかげで、少数のロットのカラー印刷物なら手軽に作れるようにはなった。 でも、ある程度以上の部数の印刷をしようとすると、あんまり状況は変わっていないのだった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.02

サル 5

藤子不二雄A著、『サル (5)』、ビッグコミックス、2005年を読む。

本作は、『プロゴルファー猿』の続編で、この5巻目で完結。 無印版でアメリカに旅立った猿も、もう今では成人。 アメリカで影のプロゴルファーとして各地を転々として活躍中。 その活躍を描いていく。

本作では、前作のように成長するゴルファーとしての猿ではなく、当初は成長したゴルファーとしての猿を描くことになった。 そのため、バリエーションは用意されていたものの、勝負を描く中で、完成された猿の野性味やセンスを強調することになる。 それでは長い物語をひっぱっていくことは難しいわけで、途中からゴルフ産業のオーナーの息子で、プロゴルファーを目指す青年と組んだり、そのオーナーに雇われた弟・中丸との出会いを描いていくことになった。

これは、無印の『プロゴルファー猿』のファンにとっては、なかなかうれしい展開だった。 名作である無印の『プロゴルファー猿』を超えられたかというと、設定にはじまるテーマなどの話作りの面から、それは難しかっただろうと思う。

本作では、円熟した藤子不二雄Aの独特の絵柄、表現が発揮されていて、ファンとしてはうれしい作品だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.10.01

陰陽師 13 太陽

岡野玲子著、夢枕獏原作、『陰陽師 13 太陽』、白泉社、2005年を読む。

本書は、『陰陽師』の完結編。

えーと、この気持ちをどう表せばいいだろうか。

そう、『ガラスの仮面』だ。

『ガラスの仮面』は、「紅天女」という演劇をめぐる2人の若い天才女優の物語だ。 そして「紅天女」とは、千年の梅の木の精である紅天女と仏師一真の恋の物語。 一真が恋をした村娘・阿古夜こそ、仏像を彫ろうと思い見つけた梅の木の精だった・・・。

人でない超常の存在が登場する幻の名作「紅天女」。 いかに、超常の存在を描き、幻の名作の舞台を紙の上に創り出すのか。 そしていかに登場人物たちの深い葛藤を描ききるのか。

『ガラスの仮面』の物語は、最終章に入り、長々とひじょうにゆっくりと展開していっている。

そんな『ガラスの仮面』の描こうとしているものを思うと、ふと、こんな気持ちになることがある。

つまり、もしも、本当に、人を超えたものの世界が描かれ、それを読むことがあったら、一体、どんな気持ちになるのだろうか、と。

その答えの一つを、この『陰陽師 13 太陽』に見た気がした。

ミクロ・コスモスとマクロ・コスモスの照合、重なりあう世界の符合と符合、通常の人の論理を超えた論理、男性原理と女性原理・・・。

ある意味、稀代の電波作品ともなってしまった。 意味がよくわかると思えるようになったら、注意した方がいいかもしれない。 向こう側の世界とふれあうとき、大量の情報が非線形に流れ込み、波打ち、翻弄されながら見る夢とは、このようなものなのかもなあと仰ぎみるのが無難なところかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2005年9月 | トップページ | 2005年11月 »