子どもが壊れる家
草薙厚子著、『子どもが壊れる家』、文春新書、2005年を読む。
本書は、法務省東京少年鑑別所の元法務教官で『少年A 矯正2500日 全記録』(文藝春秋、2004年)の著者による新刊。 近年の少年による凶悪な犯罪を取り上げ、その原因を探るというもの。
内容は、まず、酒鬼薔薇聖斗、佐世保、長崎幼児突き落とし、ネオ麦茶などの事件と、その家庭事情を紹介。 そして、その原因がゲームやインターネットと「子どもを飼う」ような過干渉と読み解き、ゲームのレーティングが大事というふうにまとめている。
この著書には、問題がある。 論証しているわけではなく、エピソードを連ねて印象論でこのような深刻な問題を論じているところだ。 現代のように、ゲームやインターネットが普及し、少子化により親が子どもにかまう時間が増えている時代に、子どものいる家に共通項を求めれば、ゲーム、インターネット、過干渉という項目があがってきても不思議ではない。 この著書の論法であれば、取り上げたい現代的な傾向があれば、なんでも原因にすることができてしまうだろう。 また、ゲームの問題に関しては、批判を集めている「ゲーム脳」を中心として、数々の独立の研究をコラージュして、専門家の見解として取り上げている。 いまさら、いくらなんでも、これだけ問題が指摘されている「ゲーム脳」はないんじゃないだろうか。
改めて調べて見ると、この著者は、「ゲーム脳」の影響はここまできた!? 女たちはなぜパンツを見せるのか、本当に危ない! ゲーム脳が蔓延の恐怖などの「ゲーム脳」関係の記事を過去に書いている。 そればかりか、ゲーム脳に犯される子供達などの講演テーマで講演を引き受けていたりもする。
うーん…。
未読だった『少年A 矯正2500日 全記録』も読んでみた。 本文はともかく、あとがきの記述が気になった。 まず、著者が法務省東京少年鑑別所法務教官をしていたのは、十数年前から2年間。 つまり、この記述が正しければ、1997年に事件を起こした少年Aとはオーバーラップはなかったということだ。 要するに、この本は、10年以上前に辞めた職場における、守秘義務に閉ざされた業務のことを、ジャーナリストが外部から取材して書いたものだということなのだ。 もちろん、著者は、少年Aと職務上で面識があったとは書いていない(そもそも、職務上知り得たことを守秘義務に反して公にしたら、それはそれで問題だが)。 しかし、たとえば冒頭もそうだが、あたかも見てきたような書き方をしており、その辺はミスリードしやすくなっている。 また、少年鑑別所の仕事はハラスメントをきっかけに辞めざるをえなくなったという記述や、取材に関して少年院のスタッフとトラブルがあったことなども記されている。 そうした記述を読んでいると、どうも何か別なものを、理想や正義といったものに仮託して語っているような気が、わたしにはしてくるのだった。
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