流れ星が消えないうちに
橋本紡著、『流れ星が消えないうちに』、新潮社、2006年を読む。
本書は、ライトノベル作家として有名な橋本紡の最新刊。 過去の恋愛と友情に心をとらわれた恋人たちの物語。
主な登場(?)人物は、奈緒子、巧、加地くんの3人。 かつて、奈緒子の恋人で、巧の親友だった加地くんは、遠い異国で亡くなってしまい、もういない。 それから、奈緒子の家族である、父と妹(と母)がお話には登場する。
奈緒子と加地くんは、本当にお互いに愛し合っていた。 加地くんを失ってから、奈緒子はどこか壊れてしまい、玄関に布団を敷いて寝ている。
そんな奈緒子と加地くんの関係だったのに、加地くんは他の女の子と一緒に異国の地で事件に巻き込まれ、死んでしまう。 その2人のストーリーをテキトーに美しく描いたワイドショーの報道や、知人たちの根拠のない噂話は、奈緒子の胸に微妙な角度で突き刺さる。
全然、タイプは異なるが、ひょんなことから、お互いに認め合う間柄になった巧と加地くん。 巧は、加地くんにある種の理想を見ていた。 そんな巧だったが、いつの間にか、加地くんを失った奈緒子とつき合うようになった。 二人にとって、加地くんは大きすぎる存在だ。 それが、二人の関係をゆさぶる。
『流れ星が消えないうちに』は、失われてしまったかけがえのないもの、失われてしまったが故に輝き続けてしまう過去に、魂をひかれてしまっている2人の変容の物語だ。 うまくいかない日常のなかのちょっとしたこと、一人一人の不完全な人間の存在の重さを、それでも信じる姿勢を貫く物語だ。
特殊な能力を持った存在も、萌えキャラも、世界の危機も、そんなものがなくても、十分にミラクルな物語が成立することを実感した。
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