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2006.03.22

メルニボネの皇子

マイクル・ムアコック著、井辻朱美訳、『永遠の戦士エルリック1 メルニボネの皇子』、ハヤカワ文庫SF、2006年を読む。

これは、昔、ハヤカワ文庫SFで出ていた〈エルリック・サーガ〉に新作を加えて、新たな構成で再出版されたシリーズの1巻目。 どうも、7冊構成で、2ヶ月に1冊くらいのペースらしい。

この1巻目は、昔のシリーズで言うと『メルニボネの皇子』と『真珠の砦』の2つを収録している。 これは、物語の時系列で出版しようということなのだと思うが、問題もないわけではない。 というのは、〈エルリック・サーガ〉は、物語の進行順に書かれたわけではない。 短編群が最初に書かれ、その後で長編が書かれている。 長編に関しては、物語の時系列と書かれた順番がかなり異なっている。 そして、かなりムアコックの心境を反映してか、テーマというか、哲学が、書かれた時代とともに推移している。 なので、たとえば、この『メルニボネの皇子』の収録作品のように、少なくとも書かれた時期が十数年離れていると、読んだときの雰囲気が随分異なっている。

旧シリーズで『メルニボネの皇子』の方は、伝統の破壊者で、運命に翻弄されて、魔剣ストームブリンガーと微妙な愛憎関係にあるエルリック。 一方、『真珠の砦』の方は、自己実現してしまっているエルリックなのだ。 これは、全然違う。 ちなみに、メソメソしている前者の方が、説教臭くなっている後者よりも、お話としては楽しめる。

とは言え、楽しみ方のベクトルは随分異なるものの、それぞれおもしろい作品だと思う。 『真珠の砦』の方は、新約聖書外典で『使徒ユダ・トマスの行伝』の中に出てくる「インド人の国における使徒ユダの歌」、別名「真珠の歌」みたいに、真珠を取ってこいと言われる作品。 「真珠の歌」では、真珠は真の自己の魂みたいなもの。 『真珠の砦』の真珠は、これとは設定が異なるけれど、「眠り」など、共通するモチーフも興味深い。

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